がんの補完代替医療 健康食品の効果、乏しい根拠

すもも

2010年12月30日 00:00

がんの補完代替医療 健康食品の効果、乏しい根拠

「心に空白 のめり込む」

 がんを治したい、再発を防ぎたいと、がん患者の半数近くが健康食品を利用している。市場規模は1兆円とも言われ「がんに効く」「免疫力が上がる」といった体験談があふれている。しかし科学的効果はほとんど確認されておらず、薬の効果を弱めたり健康を害したりする恐れもある。公的機関のウェブサイトや医師への相談など、情報収集した上での選択が重要だ。(福島慎吾、岡崎明子)

浜松市の自営業女性が飲んでいる健康食品。左からビタミン剤、レイシ、サメの肝油のサプリメント

●総額100万円超

 浜松市の自営業女性(61)は5年前、乳がんだとわかった。手術はしたくないと、3カ月間に関東、関西、九州の病院を8カ所回った。

 一方で「体にいい」「がんに効くらしい」と聞いた健康食品を次々に試した。海草からつくるフコイダン、ミツバチの分泌液などからつくるプロポリス、サメの肝油、ロイヤルゼリー……。金額は100万円を超えた。「どれが効いたのかわからないぐらい」と女性は笑う。

 今は、市販のビタミン剤やキノコの一種のレイシ、サメの肝油のサプリメントを飲んでいる。においが強いものは苦手なので避け、飲みやすいものを選んでいる。

 女性は「西洋医学は最小限にしたい」と言う。ヨガや気功をしたりしている。

 20代のとき、東京都内の大病院で看護師をしていた。治療を受けても再発、転移で病院に再び戻ってくるがん患者を何人も見てきた。手術、放射線、化学療法という現在の「3大療法」に対して、安心感を抱けない。周囲からは「早く手術を」と言われたが、治療は自費診療のクリニックを選んだ。抗がん剤治療も切除手術も受けていない。

 「健康食品は自己満足かもしれないが、がんになるとワラをもつかみたくなる」とこの女性。健康食品を「いいお友達」という。

●半信半疑でも

 都内に住む女性(54)も2005年、左胸に乳がんが見つかり、乳房を残す温存手術を受けた。リンパ節にも転移していたが、副作用で脱毛するのが嫌で、通常は使われる抗がん剤を拒み、ホルモン療法だけにした。

 再発や転移を防ぐためにインターネットを検索してはいくつもの健康食品を試した。乳酸菌の粉末パック、免疫力を高めるとうたう植物繊維、プロポリス……。本当に効くかどうかは半信半疑だったが、とにかく使ってみた。

 1年半後、がんは首のリンパ節に転移した。転移後も、妹に薦められた1瓶2万円する水素のサプリメントや、1本6千円ほどのノニという植物の果実のジュースを飲んだ。しかし金銭的な負担が重く、効果が感じられなかったことから、飲むのをやめた。

●1本4500円の水

 都内に住む40歳代の主婦は「心の空白」から健康食品にのめり込んだという。02年に子宮頸(けい)がんと直腸がんが見つかり、抗がん剤と放射線治療のために入院。姉が「がんに効くらしい」と、1本4500円する水を差し入れた。2日で1本のペースで飲むように言われ1カ月間飲み続けた。すると、予想以上にがんが小さくなり「水が効いたのかも」と喜んだ。

 それから1年間に、健康食品に40万円近くつぎ込んだ。しかしお金が続かなくなり、やめた。女性は言う。「忙しいお医者さんには、患者の心に寄り添う余裕はないのかもしれない。でも、告知されたときから心のケアをしてくれれば、健康食品にのめり込む人はいなくなるのではないか」

●魔法の薬探す

 00年に乳がん、05年に肺がんが見つかった浜松市に住むフリーライターの山口雅子さん(54)は「がん患者や家族はみんな、魔法の薬を探している」と話す。

 同じころに夫も食道がんになり、キノコの一種のメシマコブ、プロポリス、ビタミン剤などをそれぞれ試した。30万円するキノコの一種のアガリクスを試したこともある。

 現在はこのような健康食品はやめ、日々の生活習慣や食事に気を使っている。

 闘病記録などをつづった山口さんのブログには、「○○は効くのか」という質問がよく寄せられる。山口さんは試すにせよ、成分表示が詳しく高価でないもので一つだけにとどめるよう忠告している。

 5年間で100人以上に助言してきて思うのは、治療法が無くなった人に対する心の支えの乏しさだ。「相談できる場所がない。健康食品に流れ何百万円とお金をつぎ込む人が出るのは、そこが欠けているから」と指摘する。

◇45%利用、効果実感22%

 厚生労働省の研究班は、健康食品などを含む補完代替療法の一般向けの手引「がんの補完代替医療ガイドブック」(第2版)を08年に作製し、ウェブ上で公開している。

 研究班の実態調査では、がん患者の45%が健康食品を含む補完代替医療を利用し、96%を健康食品が占めた。1人あたり平均月5万7千円を費やしているにもかかわらず、効果を実感している人は22%に過ぎなかった。家族や友人からの勧めで始めた人が78%に上った。

 「60歳以下の高学歴女性」で「化学療法を受けた人」が使う傾向にあり、がんの進行の抑制や治療目的で使っている。アガリクス、プロポリスの順に使う人が多かった。

 昨年度から新たに始まった研究班では、補完代替医療の安全性と有効性の検証に取り組んでおり、各医療機関の症例情報を集めている。担当の埼玉医科大の大野智講師は「がんの治療は手術、抗がん剤、放射線の3大療法が基本。一部の健康食品は抗がん剤の効果を弱めることが指摘されており、有効性を明らかにすることが重要」と話す。

 がんに対して健康食品は、どれほどの効果があるのか。

 「がん患者にアガリクスを投与して効果を調べることは難しく、ヒトへの効果は研究中と言うしかない」と、アガリクスのメーカーなど約20社で作るアガリクス・ブラゼイ協議会(東京都)は言う。同協議会は自主的に安全性のガイドラインを決め、アガリクス商品の品質管理などに取り組んでいる。

 アガリクスは06年、あるメーカーの商品に、動物実験でがんの発生を促進する作用が認められたと厚労省が発表。その影響から、市場全体の売り上げも4分の1から5分の1に激減したという。

 多くの企業が撤退したが、一部のメーカーは大学などと共同研究を続けている。ヒトを対象にした試験もあり、食欲の向上や抗がん剤の副作用の軽減といった効果も認められるという。協議会の加盟メーカーは「アガリクスの研究を続けるのは、健康食品の素材として面白く、可能性が期待されるから」と話す。

 一方で、過剰にアガリクスの効果をアピールする業者もいるといい、「アガリクスを万能薬として売るところは疑ったほうがいい」と注意を呼びかけている。

◆大阪大に相談外来



 大阪大では4年前から「補完医療外来」を開設し、患者の相談に乗っている。1回30分、1万5千円の自由診療。伊藤壽記教授は「見た目が似ているため薬を飲んでいる気になるが、健康食品の成分は八百屋で売っている食品と同じ。一方で、薬ほど安全性については気にされていない」と話す。外来では無理に服用を止めないが、ほかの薬との相互作用や生活習慣の改善の重要性を説明するという。

 独立行政法人の国立健康・栄養研究所では、健康食品の研究成果や健康情報などをまとめて公開している。梅垣敬三情報センター長は「がんに対する効果があると信じるに足る根拠がある食品はまずない」と言い切る。がんへの作用があったとする学術論文があっても、ヒトではなく、細胞レベルや動物実験での話がほとんどなのだという。

 同研究所のまとめたところでは、アガリクスについては「ヒトでの安全性と有効性については、信頼できるデータが見当たらない」というのが現状だ。メシマコブも有効性が示されていないが、「大量摂取は下痢や嘔吐(おうと)を引き起こす可能性があり、避けるべきである」としている。サメの軟骨は「乳がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん、脳腫瘍(しゅよう)に効果がなかった」という。

 効果をアピールするのに、学識者のコメントや「効いた」という経験者の話が持ち出されることがあるが、その情報の信頼性は低い。また、「自然」「天然」を強調する食品は、工場で管理されてつくられているわけではないので、品質が一定でない可能性もあるという。

 「それでも健康食品を使うときは、医師に相談をしてからにしてほしい。いい作用があるならば、悪い作用が出るのも当たり前。医者に黙って使うのは危険」と、梅垣さんは訴える。

■関連ウェブサイト

厚生労働省の研究班(http://www.shikoku-cc.go.jp/kranke/cam/index.html
がんの補完代替医療ガイドブック(http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med67/guide/index.html
国立健康・栄養研究所(http://www.nih.go.jp/eiken/
アガリクス・ブラゼイ協議会(http://www.agaricus-blazei.jp/

■補完代替医療に関する相談窓口(いずれも要予約)

大阪大学病院(大阪府吹田市) 06・6879・3498
徳島大学病院(徳島市) 088・633・7960(平日午前9~12時)
芳珠記念病院(石川県能美市) 0761・51・5551

(2010年9月21日付 朝日新聞朝刊から)

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なんだか切なくなる話だなって思う
がんになると、ほとんどの人が体の一部を無くしてしまう
でも、それを埋めるものが補完代替療法になるなんて
なんだかもっと寂しくなるなって思う

私も1本3000円の水を勧められた
でも、そんなお金もなければ信用もできないなって思った
なのに進められるのは多い~~
お水もAHCCっていうキノコの仲間も・・・
でも「がん」が消えるって言われる量を飲むためには1ヶ月6万円以上かかるんだって
変だなって思うわ

今の流行は酵素なんだって。
あとはビタミンCとファイトケミカルなどなど・・・
本当にそれでがんが治るの。先生にそういわれたの?って思う

でも、それを信じてる人もいるんだよね
そして、それを利用しようとしている人もいるし・・・
「がん患者はお金になる」って言われている
切ないね・・・

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