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ロハスメディカル~抗がん剤なぜ効くのか2~

ロハスメディカル~抗がん剤なぜ効くのか2~

今回取り上げるのは、ホルモン剤と呼ばれるもの。いわゆる抗がん剤とは毛色が違いますが、ある種のがんにとっては弱点をついた効果的な攻撃になります。

監修/伊藤良則 がん研有明病院化学療法科乳腺担当部長

 一般に抗がん剤というと、普通は「細胞毒」に分類される薬を指し、それを使った治療が化学療法です――と、これが前回の話でした。化学療法と似たような言葉に薬物療法がありますが、厳密に言えばこちらは、「ホルモン剤」を使ったホルモン療法(内分泌療法)も含みます。
 そもそもホルモンとは、特定の器官の働きを調節するために分泌される情報伝達物質の総称。脳の視床下部や下垂体、首から肩の辺りにある甲状腺や副甲状腺、膵臓の膵島、腎臓の上にある副腎、男性では精巣、女性では卵巣といった、主に「内分泌腺」と呼ばれる器官で産生される化学物質です。作られた器官とは別の器官(標的器官)まで血液に乗って運ばれ、そこでいわば鍵が鍵穴にはまるように結合すると、特定の作用が引き起こされるようにできています。
 こうして体のあちこちに絶えず指令を運んでいる様々なホルモンのうち、生殖機能の調整を担っているホルモンを、一般に「性ホルモン」と呼んでいます。女性ホルモンの代表例は卵巣から分泌されるエストロゲン。一方、男性ホルモンはアンドロゲンともいい、精巣から分泌されるテストステロンが有名です。それぞれ女性らしさや男性らしさを司っているホルモンとして耳にしたことがある人も多いでしょう。
 この性ホルモンが、ある種のがんでは、がん細胞の増殖に関与していることが分かっています。例えば乳がんでは、ホルモンバランスが崩れてエストロゲンが過剰に分泌されることで乳腺の上皮細胞が異常に増殖し、がん発生につながると考えられています。そうした点を突くべく、性ホルモンの分泌を人為的に操作してがんを封じ込めようというのがホルモン療法なのです。

ロハスメディカル~抗がん剤なぜ効くのか2~

ホルモン依存性かどうか
 ですから基本的にホルモン療法の対象となるのも、女性は乳がん、子宮体がん、卵巣がん、男性では前立腺がん、といったように生殖器のがんが中心。例外的に、甲状腺がん、腎がん等もあります。要は「性ホルモンで成長するがん」でなければならず、逆に、生殖器のがんでも性ホルモンによって成長しない場合には、効果は期待できません。
 性ホルモンで成長するがん、つまり性ホルモンが分裂・増殖に関与しているがんを、「ホルモン依存性のがん」と言います。ホルモン依存性かどうかは、がん細胞の核の中にホルモン受容体(レセプター、ホルモンを受け取る部分)があるかないかで決まってきます。
 ホルモン受容体は、特定のホルモンを受け取ってその信号を読み取る部分。先ほどの表現を使えば、女性ホルモンが鍵で受容体が鍵穴です。詳しい仕組みはまだ解明途上なのですが、この鍵と鍵穴が出合って結びつくと、鍵穴ごと細胞の核の内部に取り込まれ、細胞増殖を促す遺伝子の発現を引き起こすことが明らかになってきました。そうして、がん細胞が異常な分裂・増殖を始めたり強めたりすることになります。
 ですから、こうしたホルモン受容体のあるがんならば、ホルモン療法の効果が期待できます。見極めるためには、がん細胞を採取して、ホルモン受容体があるかないか、つまり陽性(+)か陰性(-)かを調べます。例えば乳がんなら、エストロゲン受容体かプロゲステロン受容体のどちらかが陽性であればホルモン療法が有効。ホルモン受容体が陰性の場合は、化学療法を受けるのが標準的です。


体への負担少なく進行を遅らせる。
 さて「性ホルモンで成長するがん」の場合、やはりというべきか、性ホルモンの分泌が止まるとがん細胞の増殖も抑えられることが観察されています。これを人為的に行うのがホルモン療法の仕組み。直接的にがん細胞を殺すというより、性ホルモンの供給を絶ってがん細胞の増殖を止め、自滅に追い込もうというものです。
 そのためホルモン療法だけでがんを根治することはできせんが、がんの進行を遅らせるのには有効。なおかつ細胞毒系の抗がん剤のように直接的に細胞やDNAを破壊したりするわけではないので、強い副作用が少ないというメリットがあります。欧米では特定のがんの発症リスクの高い人に対し、予防的に投与されてもいます。ただ、細胞毒系の抗がん剤と組み合わせると、相性によっては作用が相殺されたり副作用が強まってしまうことも。注意が必要です。

ホルモン剤もいろいろ
 ホルモン剤にもいくつか種類があります。近年のがん治療で最も多く使われているのが、「抗ホルモン剤」と呼ばれるもの。これは、特定のホルモンに似せた物質で、送り込まれたがん細胞の中にホルモン受容体があると、ホルモンを出し抜いていちはやく結合してしまいます。結合したところでそれはホルモンではありませんから、何の指令を担っているわけでもありません。そうしてがん細胞を増殖させる情報伝達を阻害するのです。女性特有のがんには女性ホルモンのエストロゲンに似せた抗エストロゲン剤、男性特有のがんにはアンドロゲンに似せた抗アンドロゲン剤がそれぞれ使われます。
 これに対し、がんの治療にホルモン剤が使用され始めた頃は、そのものずばり性ホルモンの製剤を投与するのが主流でした。ホルモンは、反作用をもつ別のホルモンによって分泌が促進されたり、抑制されたりする性質があります。そこで、男性ホルモンによって増殖する前立腺がん等にはエストロゲン製剤など女性ホルモンを投与、女性ホルモンによって増殖する乳がんや子宮体がん等にはテストステロン製剤など男性ホルモンを投与、というふうに〝逆の性ホルモン〟で対抗するわけです。
 性ホルモンの分泌を抑制するものとして他に、性ホルモンの分泌を促すLH(性腺刺激ホルモン)やLH‐RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)に似せた薬剤を投与する方法があります。特に「LH‐RHアゴニスト製剤」は実効性が多く報告されています。アゴニストとは、受容体に結合して生体ホルモンと同じ作用を及ぼす化合物のこと。ちょっと聞くと、抗ホルモン剤がホルモンと似ていることを利用しているのと同じやり口かと思われるかもしれませんが、厳密には逆の働きを使っています。LH‐RHアゴニスト製剤は、体から分泌されるLH‐RHの数十倍の強さで下垂体の受容体を刺激します。すると一時的にLHの分泌は高まりますが、連続的に過度に刺激されたLH‐RH受容体はかえって減少していくのです。結果、LHの分泌が抑制され、ホルモン分泌が抑えられる仕組みというわけです。
 このほか、性ホルモンの生産に関わる酵素の働きを抑えることで、ホルモン分泌を妨げる「ホルモン生成阻害剤」もあります。例えば、女性ホルモンのエストロゲン産生に必要なアロマターゼの働きを抑える「アロマターゼ阻害剤」が女性特有のがんに多く使用されています。
 こうしたホルモン剤の多くは、液剤や錠剤の形で毎日服用します。LH‐RHアゴニスト製剤は皮下注射で投与します。

ホルモン剤、選択のポイントは?
 ここからは女性の2大がんである乳がんと子宮体がん、そして男性特有のがんとして前立腺がんを例に、ホルモン剤の作用の仕方についてもう一歩踏み込んで見ていきます。
 女性特有のがんの場合、ホルモン療法のポイントは、閉経前と閉経後でエストロゲン分泌のされ方が違い、そのために使う薬も違ってくるかもしれない、という点です。
 閉経前の女性の場合、まず脳の視床下部というところからLH‐RHが分泌されます。このLH‐RHが脳下垂体でLH‐RH受容体と結合し、LH(卵胞刺激ホルモン)を作り出し、LHの刺激を受けて卵巣からエストロゲンが分泌されることになります。ですからエストロゲンの分泌を抑えたい場合は、LH-RHの作用を阻害するLH‐RHアゴニスト製剤が有効です。
 一方、卵巣機能が低下した閉経後は、脳下垂体から分泌された副腎皮質刺激ホルモンの刺激を受け、副腎からアンドロゲン(なんと男性ホルモン!)が作られます。このアンドロゲンが全身の脂肪細胞などにあるアロマターゼという酵素と結合して、エストロゲンに作り変えられるのです。ですから、アンドロゲンより先にアロマターゼと結合して働きを妨げるアロマターゼ阻害剤を使えば、エストロゲンの産生が抑えられるのです。
 なお、既に分泌されたエストロゲンの働きを妨げる抗エストロゲン剤は、閉経の前後を問わず使用されます。

前立腺がんにはMAB療法も
 男性特有のがんでは、特に65歳以上の高齢の男性に多くみられる前立腺がんにホルモン療法が有効です。前立腺がんは今や患者数が4万人を超えて増加中とされ、男性なら誰しも他人事とは言えなさそうです。
 問題となるのはアンドロゲンですが、若い頃はその95%が精巣で作られるテストステロンで、5%が副腎由来とされています。かつては前立腺がんのホルモン療法として、テストステロンの分泌を止めるために精巣の摘除術が広く行われていました。が、代償も大きいですよね。そこでホルモン剤による薬物治療が大きく進歩したのです。
 具体的には、テストステロンの産生を抑えるLH‐RHアゴニスト製剤、アンドロゲン受容体に取り付いてアンドロゲンの作用を妨げる抗アンドロゲン剤、あるいは女性ホルモンを投与することでアンドロゲンの関与を抑えるエストロゲン製剤が、おおまかなホルモン剤の候補です。
 なかでもLH‐RHアゴニスト製剤は精巣摘除術と同等の効果が得られるため、第一の選択肢となります。作用の仕方はエストロゲンの時とほぼ同じ。脳の視床下部から分泌されるLH‐RHが受容体に結合するのを阻害します。結果として精巣からテストステロンが分泌されなくなるため、前立腺がんが縮小していくことになります。
 ただ、LH-RHアゴニスト製剤による治療を行っている状態でも、約5%を占める副腎からの分泌の影響で、前立腺内に活性化されたアンドロゲンが約40%も残っていることが分かってきました。しかも、前立腺がんにかかりやすい50~60代になると精巣からのテストステロンの分泌が減り、相対的に副腎性アンドロゲンのがんへの関与が高まってくるとされています。
 そこで、既に産生されたアンドロゲンの作用を最大限抑えるため、LH-RHアゴニスト製剤(または精巣摘除術)に抗アンドロゲン剤を併用する治療が行われています。最大アンドロゲン遮断(MAB)療法です。実は日本ではこのMAB療法を受けている人が最も多く、ホルモン療法を受けている人全体の6割に達しています。
 それでも一般に、早期がんならLH-RHアゴニスト単独で10年間は十分がんを抑えられるとも言われます。逆にこの段階でMAB療法を用いるとなれば、副作用が大きくなる懸念や医療費がかさむことなども考えておかねばならないでしょう。

前立腺がんは治療しない場合もある?  実は前立腺がんは無治療で経過観察をすることもあります。これは高齢者に多いこともあり、一般的に他のがんと比べて進行が非常に緩やかなため。実際、前立腺がん以外の原因で亡くなった人を解剖したときに初めて微小な前立腺がんが発見されることも多いのです。「ラテントがん」(潜在がん)と呼ばれます。前立腺がん以外で亡くなった高齢者の約2割に前立腺がんがあるといわれています。つまり、治療してもしなくても命には関係のない前立腺がんがある、ということです。

副作用と抵抗性の壁を乗り越えて。
 先にも少し触れましたが、ホルモン療法の利点としてよく上げられるのが、副作用が比較的軽いということです。細胞毒系の抗がん剤とは違って、かえって命に関わる事態に陥るような心配はありません。しかし副作用が全くない薬はありませんし、ましてホルモン療法は長期にわたりますから、多かれ少なかれ何らかの有害反応は覚悟しておくべきなのも確かです。
 ホルモン療法では、性ホルモンの分泌や働きを阻害するために、男女とも、更年期障害のような症状が出てきます。具体的には、のぼせやほてり、イライラや躁鬱、関節痛、眠気や頭重感などがあります。加えて女性では生理不順や膣乾燥が見られ、男性では勃起障害が起こります。乳房が女性のように黒ずんで大きくなったり、痛むこともあります。
 更年期障害に似た症状の中でも特に、LH-RHアゴニスト製剤(MAB療法含む)や女性ではアロマターゼ阻害剤などを使用した場合、骨密度の低下が懸念されます。個人差も大きいのですが、半年から1年程度で急激に低下して骨粗しょう症になる人もいます。問題は太ももの骨や背骨を骨折しやすくなること。骨折すると寝たきりになりやすく、肺炎等の合併症も増えて、寿命を縮めかねません。
 一方、抗ホルモン剤は性ホルモンと似たような作用も持っているのが興味深いところ。
 そのせいで治療の効果が下がってしまうこともあれば、コレステロール値を下げたり骨粗しょう症を予防するなど、他のホルモン剤とは全く逆の効用もあったりします。
 その他、女性特有のがんに男性ホルモン製剤を使ったり、男性特有のがんに女性ホルモン製剤を投与する場合、重大な副作用として、稀に血栓症や心臓の障害を起こすことがあります。そのためいずれも使用は減っています。
 こうしたホルモン剤の副作用については、ものによって治療薬もあります。しかし、その治療薬に副作用があることも珍しくありません。例えば勃起障害は飲み薬で治療できますが、心臓が悪い人や血圧が安定しない人が使用すると重篤な副作用の危険もあります。いずれにしても、まずは主治医に相談を。他の薬剤に変更することによって副作用が改善することもあります。副作用が出るからといって勝手に薬をやめることは、もちろんNG。特に飲み薬は規則正しく続けることが大事です。

効かなくなる? でも道はある
 さらにホルモン療法のもう一つの問題が、「ホルモン抵抗性」です。長期間の継続によって、ホルモン剤が効かなくなる時期が訪れるのです。
 ホルモン依存性と非依存性のがん細胞があるという話をしましたが、もともと一つの腫瘍の中にどちらか一方だけが存在しているとはかぎりません。むしろ片方はわずかながら、両者が共存していることがほとんどです。ホルモン療法ではホルモン依存性の細胞が減ることでがんが小さくなりますが、やっかいなのが、わずかに残った非依存性細胞。じわじわ、しだいに増殖してくるのです。当然、そうして成長したがんにはホルモン療法が効きません。
 でも、諦めるのはまだ早い。ホルモン抵抗性に対する治療法も開発されてきています。
 例えば前立腺がんで、MAB療法を続けてきて抵抗性が現れたら抗アンドロゲン薬だけ中止する方法があります。いつの間にか抗アンドロゲン剤自体ががんを増殖させるようになることがあるためです。あるいは、あらかじめ抵抗性を回避するために、ある程度効果が上がったら治療を中断し、がんが大きくなったら治療、というのを繰り返すやり方(間欠的除去療法)もあります。経済的にも優れ、副作用の軽減にもつながります。
 また、ホルモン療法が効かなくなると、貧血、疲労、痛みといったがん特有の症状が現れ、患者のQOL(生活の質)は低下します。原因はがんによる炎症で、それを抑えるのにはステロイド薬治療が有効。そして前立腺がんであれば、最終手段とも言えるのが細胞毒系の抗がん剤。タキサン系抗がん剤の併用療法が多く試みられています。

理解を深め不安を和らげて
 いずれにしても、ホルモン療法も人によって効き目や副作用に差があるもの。そうしたことを正しく理解し、自分の体の変化を把握するようにしてください。ホルモン療法中は気分の落ち込みを経験する方も多く、自分だけがおかしいのではないかとつい不安に駆られがちです。でも、それも薬の副作用だと認識しましょう。少しなりとも気持ちが落ち着き、体の症状が軽くなることもあるようです。
 ホルモン療法は長期間にわたります。生活上の留意点に気をつけ、それ以外は必要以上に力を入れずに、できるだけ普段どおりの生活を送るよう心がけてみてください。

抗ホルモン剤でがんになる?  乳がんによく用いられる抗エストロゲン剤のタモキシフェンは、子宮では女性ホルモンのようにも働くため、子宮筋腫や子宮内膜がんのリスクが高まるとも言われています。といっても、実際には子宮内膜がんが発生する率はごくわずか。乳がんの再発率を抑える効果の方が圧倒的に大きいという研究結果が出ています。それでも定期的に婦人科検診を受けておくと安心です。もし不正出血などがある場合は、すぐに主治医に相談しましょう。

ロハスメディカル:http://lohasmedical.jp/archives/2011/09/post_177.php?page=1

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    2011年10月18日 Posted byすもも at 00:00 │Comments(0)読んだ本・・・がん

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