悼む人

『ぼくは、亡くなった人を、ほかの人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたいんです』と、主人公の静人は言います。どんな事件の被害者であっても同じように尋ねてまわります。
事件が残酷になればなるほど、不思議と被害者よりも加害者を覚えていたりします
そしてそういう事件ほど被害者を『覚えておくこと』は難しいし苦しいこともあると思います
もう10年以上になりますが、友人とお花見の約束をしました
始めてネットを繋げた時だったのもあって、いつもは電話だったのをメールで『絶対に来るんだよ』と送りました。
当日、よっちゃんは来ませんでした。雨が降っていてみんなで「よっちゃん来ないね~~~」「きっと、よっちゃんのことだから他の友達とお花見でもして遅れてくるんじゃない?」なんて話をしていました。
その帰り道によっちゃんが亡くなったというのを知りました。
それからお花見の時期になるとよっちゃんの実家に桜の花を送っていました。
東北訛りのある彼のお母さんからかかってくる電話は、私にとって楽しみになっていました
そんなお母さんが、まだ50代の若さで乳がんの再発で亡くなってしまいました。
その後、私自身もがんになりました
その時に、お世話になっていた友人から、よっちゃんのお父さんが彼女の友人に一方的に思いを寄せて友人がとても迷惑していることなどを聞きました。想像もつかない話でしたが、でも思い当たることがありました。初めてよっちゃんの家でお花見をした時に、私の友人とお父さんが知りあいだということがわかって急遽、お花見に友人と彼女とが参加をしました。その時に、お母さんと彼女の名前が同じだったこともあって、お母さんが「私と同じね~~~」ととても嬉しそうに2人で話をしていたのを思い出した。お母さんと彼女は名前だけでなく、色の白いきめの細かい肌で少し茶色い髪の色でふんわり天然パーマがかかっている雰囲気までそっくりでした。
お母さんが亡くなってから、彼女の展示会(伝統工芸の作家)でお父さんと会ってから何度も電話が来てこまっているという話でした。その後、偶然というかそんなところまで似ていたのかと思ったけれど彼女もお母さんと同じ乳がんになって手術、放射線治療、抗がん剤という「がんのフルコース」を受けて作品を作るのが難しい(腕を使う仕事なので)ので実家へと帰っていきました。
友人からその話を聞いた後もよっちゃんの命日には桜を送っていましたが、あの地震の時に被災地にいた私は初めて桜を送れませんでした。そしてその後から、桜を送るのではなく私が友人のところに行った時にお墓参りをすることにしました。お父さんの事を知っている友人にその話をしたら「それでいいんじゃない。ちゃんとお墓参りをしているんだから」と言ってくれました。でも、私の中で少し『後ろめたさ』を感じています。それは「私はよっちゃんやお母さんを忘れたんじゃないよ」という気持ちなんだと思いました。
よっちゃんが亡くなった後、お宅に行くと何度も何度もお母さんがよっちゃんが小さかった時の写真を見せてくれました。人に見せるようにとアルバムから外して持っていた写真です。それを私に見せながら小さい時の思い出を何度も話してくれました。それは『あの子を忘れないで』『私たちと同じように、あの子の事を覚えておいてね』と言っているような気がしました。そして、自分たちが知らない息子の話を聞きたいと言っていました。
本の中で『ぼくは、亡くなった人を、ほかの人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたいんです』彼の言葉は遺族の自分にとって唯一の存在だった人を自分たちと同じように覚えておいて欲しい。ということなのだと思います。
『誰に愛されていたんでしょうか。誰を愛していたんでしょう。
どんなことをして、人に感謝されたことがあったでしょうか』
お母さんが、よっちゃんが亡くなった後で私に「あの子には彼女がいたのかしら?そういう人がいてくれたらよかったんだけど」と聞いていました。まだ24歳で亡くなった息子が誰かを愛していたのか。そして自分達家族ではない女性に愛されていたのかが知りたかったのかなと思った。
私はそれに答えてあげることはできなかったけれど、友人と一緒に4人で旅行に行った写真に楽しそうに笑って写っている彼の隣には可愛らしい女性がいて、お母さんと「彼女だったらいいね」と話していました。
恋愛関係にあった人が亡くなった時などは、その人を覚えているのはつらいこともあるし、忘れて他の人を好きになるほうがいい時もあります。そして、日々の事に追われていると昔の事は少しずつだけれど確実に忘れてしまっている自分を感じます。
主人公の静人のように全ての人の死を「覚えておきたい」というのは、難しいけれど「自分の事を覚えておいてくれる人がいる」「自分の愛する家族のことを自分達以外の人が覚えていてくれる」というのは、本当は私たちみんなの願いなんだと思いました。
そして、それが私がブログを書き始めた理由なんだと思った。
有名ではないけれど、誰かに愛された人が亡くなっている。
その事を知って欲しいから書いたのだと思った。
ときどきしんどくなるし、ちょっと虚しくなる時もあるけれど書いていきます。
2013年06月02日 Posted byすもも at 00:00 │Comments(0) │読んだ本・・・その他
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