スポンサーリンク
がん治療の原則(1)~(6)
上野直人医師の「がん治療の原則」です
全文はこちらから:http://www.teamoncology.com/column/column_ueno.php4?f=090420.inc
はじめに
■原則を守りながら、がん治療を行うことが大切です!
日本の医療従事者がアメリカに来ると、下のような大変に興味深いコメントを口にします。
「アメリカの医療はとてもアバウトである。悪く言えば、がさつである。」
「アメリカの医療はお金がかかりすぎている。お金をかければ、日本でも同じようにできる。
ただ、日本はお金を簡単にはかけることができないので、アメリカに追いつけないだけだ。」
本当にアバウトかどうかは別として、がん治療の原則を守ることができないなら、アメリカでは
がん医療をする資格はないのかもしれません。また、この原則が見えてくると、がん医療の日米の差が
必ずしもお金の問題でないと気づいてくるかもしれません。
がん治療の原則(1)
■治療が効くか効かないかは身体の調子によって決まります
がん治療が効くか効かないかが何によって決まるかというと、それはパフォーマンス・ステータス
(Performance Status:PS)によって決まります。パフォーマンス・ステータスとは、患者さんがどれだけ
元気に活動しているかの指標です。全身症状の指標とも言います。これはカルテにちゃんと書いてある
はずです。医師は、これをふし目ふし目でちゃんとカルテに記入しなければいけません。
つまり、元気な患者さんほど、抗がん剤を投与すると効果があります。そして、身体の調子が悪い人ほど、
抗がん剤を投与すると良くなるより悪くなる可能性が高くなります。ただし、この原則からはずれる症例も
あります。たとえば、がんが重要な臓器(肺など)に明らかに直接的に悪影響を与えていて、身体の調子が
悪い場合です。このような場合は抗がん剤を投与すると効果がありますが、多くの場合、身体の調子が
悪い人ほど、抗がん剤を投与すると悪くなる可能性が高くなります。
がん治療の原則(2)
■がんになると、以前と同じ人生には戻れません
厳しいことを言って申し訳ありませんが、がんは治りません?!
つまり、治るとは、どういうことなのかということです。僕自身、がん患者ですが、患者として言える
ことは、仮に医学的にがんが治ったとしても、多くの患者さんは再発がおきないか、心の中で葛藤して
います。また、治療の副作用やその経験によって、人生観が変わってしまいます。
なので、僕は患者さんには、がんになると以前と同じ人生には戻らないだろうと言います。
決して同じ人生に戻れるとは言いません。「治る」、すなわち「以前と同じ人生に戻れる」と気軽に
言うのは、医療従事者の勝手な言い分だと思います。
さて、人間はいずれ死にます。がんになると、この、人間はいずれ死ぬという明白な事実が真に迫って
きて、今まで考えたこともない人生観というものを考えさせられるようになります。しかし、がんの告知を
受けない人は、この人生を考えるという、またとないチャンスをのがすことになります。
がんという問題は、患者さんの人生の中では、消すことのできないスタンプを押されたようなものなの
です。がんになるとは、がんと共に生きることなのです。
がん治療の原則(3)
■標準療法が、がん医療の根幹です
がん医療の基本を理解している人は、治療とケアが大きく3つに分かれることを理解しています。
次のように、治療・ケアには3種類しかないのかもしれません。
(1) 標準療法
(2) 臨床試験
(3) (1)と(2)の間で、エビデンス(治療の科学的根拠)を最大限に引き出し、治療をすること。
この3つの使い分けができる医療従事者が一番すぐれていると思います。この3つを理解して、そのつながり
をチームを作って実践できる人たちは、良いがん医療を提供できる可能性が高いでしょう。しかしながら、
そのような人たちがいるかというと、なかなかいないのが現状です。また、それらを行うことができると
言っているだけの医療従事者がいるだけなのが現実です。
がん治療は常に変化するので、標準を理解していない医療従事者は、がん医療の問題点さえ気づいて
いないし、解決法も知らないことが多いものです。つまり、標準がないので、ちゃんとした根拠に基づいて
治療を行うことができないのです。あるいは逆に、適当に自分の治療法を作って、いかにも良い医療である
と宣伝するようなことに陥ってしまいます。
標準療法が、がん医療の根幹であるというのが、がん治療の原則です。この原則から外れたければ、
医療従事者の方々は、臨床試験などを行ってエビデンスを創ってください。
がん治療の原則(4)
■治療しないことも治療の1つです
進行性がん、あるいは再発がんの多くは治りません。とても残念なことですが、それが今の医療科学の
現実です。そして、それらのがんを撲滅するためには、基礎医学、トランスレーショナル・リサーチ
(Translational Research:基礎的な研究成果を臨床の場へと橋渡していく研究)、臨床研究(試験)などを
さらにより多く行わなければなりません。
それでは、現在、進行性がんなどに対する治療には、化学療法以外にどのような治療があるのでしょうか?
実は治療することと同時に「治療しない」ことも治療の1つなのです。つまり、当初はがんを治療によって
コントロールすることで、生活の質(QOL)の向上あるいは維持を目指します。しかし、いずれは、
がんをコントロールする手だてがなくなり、治療することでかえって副作用の問題の方が大きくなる可能性
が高いのです。
がん患者さんは、治療しないことも考慮して治療計画を立てられる医療従事者を見つけてください。
そして、緩和医療を理解している、がん専門医療従事者をどうぞ見つけてください。
がん治療の原則(5)
■治療の目標は患者さんの高い満足度を得ることです
がん治療・ケアの目標は、患者さんの高い満足度を得ることです。医療従事者は、このことを肝に銘じる
必要があります。しかし、言うのは簡単ですが、行うのはむずかしいものです。
患者さんの満足度は、がんを縮小させる、がんを切除する、長く生きるなど、身体的なものによって
向上する可能性があります。しかし、それだけで患者さんが十分に満足できるかというと、決してそうでは
ありません。患者さん自身の社会的なニーズあるいは個人的なニーズによって、満足度は大きく変わり
ます。たとえば、仕事をずっと続けたい、孫と一緒に暮らしたい、美味しいものを食べたいなど、
ニーズはさまざまです。
自分自身の人生のニーズがわかっている人は幸福です。自分が何のために生きているのか、また何によって
生きているのかがわかる方は、自分にとって必要なものがわかり、医療従事者とのコミュニケーションも
円滑に行え、高い満足度を得ることができるように思います。医療従事者は、その患者さんのニーズと、
科学的真実に基づいた治療やケアをつなげることが仕事です。
がん治療の原則(6)
■抗がん剤の副作用はあってはいけないものです
化学療法など、がんの全身療法を行うと、ともすれば患者さんに対して、「抗がん剤治療だから、
多少の副作用はつきものだから、我慢すべきだ!」と、患者さん自身も、家族も、また医療従事者も
考えてしまう傾向があります。これは原則として間違いです。
「副作用」はあってはいけないものですし、我慢など強調してはいけません。多少にかかわらず、
医療従事者は患者さんの苦しみを緩和する努力をしなければいけません。ましてや、患者さんが寝たきりに
なるような全身療法を行うことはもってのほかです。そして副作用にどのように対応するかは、高度な
内科的アプローチが求められます。副作用にうまく対応して全身療法をするには、内科を含めて最低でも
6年に及ぶ高度なトレーニング(研修)が必要です。
よりよいがん医療を受けるには、患者さん自身が出現しそうな副作用の種類などを知り、アンテナを張って
モニターし、常に医療従事者へ副作用の有無を報告するべきです。それで、もし医療従事者が我慢を
強調するようなら、今後、そのようなところでは適切な治療は受けられないかもしれません。
おわりに
■原則を守って治療を行う医療従事者を育てることが大切です
患者さんが人間らしく生き、そして、いい死を迎えるには、医療従事者が原則を守って治療を行うことが
必要です。しかし、医療従事者の多くがちゃんと原則を実行しているかとなると、大きな疑問があります。
実は、がん治療の原則は教科書などには明確には書かれていません。これらの原則は、医療従事者としての
訓練のなかで身につけるものであり、身につかないまま医療従事者になれば、それを後で身につけることは
とても大変なことです。
ですから、原則を守って治療を行う医療従事者をしっかりと育てることが大切です。そして、本当の意味
で、患者さん中心の新しいがん医療を行うには、がん医療の新しいリーダーを養成することが必要と
考えています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私の通っている病院で、入院中にインターンデビュー前の学生さんと模擬診察をするという機会が
ありました。私の担当は、まだまだ若い男子学生さんでした
その時に、印象的だったのは模擬診察で患者さん役をしてくれる患者に教授がわざわざ生徒を連れて
一人ひとりに「お願いします」と挨拶に来てくれた事です。もちろん、学校の先生も一緒でした
その時に教授が言われたのは「医師になっていない者を患者さんにお願いするのだから」という事でした
ドラマで見る朝の教授回診のイメージとは違っていて(白い巨塔みたいな)うちの教授はとっても
腰の低い方でした。当たり前なのかな?でも、本当に優しい笑顔の先生でした
私が通っている病院で主治医に初めて会った時に印象的だったのは「○○です。お願いします」と名前を
みせて挨拶をしてくれた事でした
患者さんによっては医師に名前を聞いたら「掲示板に名前が出てるだろう」と言われたという話もあります
一度も顔を見ないでモニターを向いたままで診察が終わったという話もあります
難しいことかもしれませんが、よりよいコミュニケーションをする事がよりよい治療を受けることに
つながるのかもしれないと思った出来事でした
全文はこちらから:http://www.teamoncology.com/column/column_ueno.php4?f=090420.inc
はじめに
■原則を守りながら、がん治療を行うことが大切です!
日本の医療従事者がアメリカに来ると、下のような大変に興味深いコメントを口にします。
「アメリカの医療はとてもアバウトである。悪く言えば、がさつである。」
「アメリカの医療はお金がかかりすぎている。お金をかければ、日本でも同じようにできる。
ただ、日本はお金を簡単にはかけることができないので、アメリカに追いつけないだけだ。」
本当にアバウトかどうかは別として、がん治療の原則を守ることができないなら、アメリカでは
がん医療をする資格はないのかもしれません。また、この原則が見えてくると、がん医療の日米の差が
必ずしもお金の問題でないと気づいてくるかもしれません。
がん治療の原則(1)
■治療が効くか効かないかは身体の調子によって決まります
がん治療が効くか効かないかが何によって決まるかというと、それはパフォーマンス・ステータス
(Performance Status:PS)によって決まります。パフォーマンス・ステータスとは、患者さんがどれだけ
元気に活動しているかの指標です。全身症状の指標とも言います。これはカルテにちゃんと書いてある
はずです。医師は、これをふし目ふし目でちゃんとカルテに記入しなければいけません。
つまり、元気な患者さんほど、抗がん剤を投与すると効果があります。そして、身体の調子が悪い人ほど、
抗がん剤を投与すると良くなるより悪くなる可能性が高くなります。ただし、この原則からはずれる症例も
あります。たとえば、がんが重要な臓器(肺など)に明らかに直接的に悪影響を与えていて、身体の調子が
悪い場合です。このような場合は抗がん剤を投与すると効果がありますが、多くの場合、身体の調子が
悪い人ほど、抗がん剤を投与すると悪くなる可能性が高くなります。
がん治療の原則(2)
■がんになると、以前と同じ人生には戻れません
厳しいことを言って申し訳ありませんが、がんは治りません?!
つまり、治るとは、どういうことなのかということです。僕自身、がん患者ですが、患者として言える
ことは、仮に医学的にがんが治ったとしても、多くの患者さんは再発がおきないか、心の中で葛藤して
います。また、治療の副作用やその経験によって、人生観が変わってしまいます。
なので、僕は患者さんには、がんになると以前と同じ人生には戻らないだろうと言います。
決して同じ人生に戻れるとは言いません。「治る」、すなわち「以前と同じ人生に戻れる」と気軽に
言うのは、医療従事者の勝手な言い分だと思います。
さて、人間はいずれ死にます。がんになると、この、人間はいずれ死ぬという明白な事実が真に迫って
きて、今まで考えたこともない人生観というものを考えさせられるようになります。しかし、がんの告知を
受けない人は、この人生を考えるという、またとないチャンスをのがすことになります。
がんという問題は、患者さんの人生の中では、消すことのできないスタンプを押されたようなものなの
です。がんになるとは、がんと共に生きることなのです。
がん治療の原則(3)
■標準療法が、がん医療の根幹です
がん医療の基本を理解している人は、治療とケアが大きく3つに分かれることを理解しています。
次のように、治療・ケアには3種類しかないのかもしれません。
(1) 標準療法
(2) 臨床試験
(3) (1)と(2)の間で、エビデンス(治療の科学的根拠)を最大限に引き出し、治療をすること。
この3つの使い分けができる医療従事者が一番すぐれていると思います。この3つを理解して、そのつながり
をチームを作って実践できる人たちは、良いがん医療を提供できる可能性が高いでしょう。しかしながら、
そのような人たちがいるかというと、なかなかいないのが現状です。また、それらを行うことができると
言っているだけの医療従事者がいるだけなのが現実です。
がん治療は常に変化するので、標準を理解していない医療従事者は、がん医療の問題点さえ気づいて
いないし、解決法も知らないことが多いものです。つまり、標準がないので、ちゃんとした根拠に基づいて
治療を行うことができないのです。あるいは逆に、適当に自分の治療法を作って、いかにも良い医療である
と宣伝するようなことに陥ってしまいます。
標準療法が、がん医療の根幹であるというのが、がん治療の原則です。この原則から外れたければ、
医療従事者の方々は、臨床試験などを行ってエビデンスを創ってください。
がん治療の原則(4)
■治療しないことも治療の1つです
進行性がん、あるいは再発がんの多くは治りません。とても残念なことですが、それが今の医療科学の
現実です。そして、それらのがんを撲滅するためには、基礎医学、トランスレーショナル・リサーチ
(Translational Research:基礎的な研究成果を臨床の場へと橋渡していく研究)、臨床研究(試験)などを
さらにより多く行わなければなりません。
それでは、現在、進行性がんなどに対する治療には、化学療法以外にどのような治療があるのでしょうか?
実は治療することと同時に「治療しない」ことも治療の1つなのです。つまり、当初はがんを治療によって
コントロールすることで、生活の質(QOL)の向上あるいは維持を目指します。しかし、いずれは、
がんをコントロールする手だてがなくなり、治療することでかえって副作用の問題の方が大きくなる可能性
が高いのです。
がん患者さんは、治療しないことも考慮して治療計画を立てられる医療従事者を見つけてください。
そして、緩和医療を理解している、がん専門医療従事者をどうぞ見つけてください。
がん治療の原則(5)
■治療の目標は患者さんの高い満足度を得ることです
がん治療・ケアの目標は、患者さんの高い満足度を得ることです。医療従事者は、このことを肝に銘じる
必要があります。しかし、言うのは簡単ですが、行うのはむずかしいものです。
患者さんの満足度は、がんを縮小させる、がんを切除する、長く生きるなど、身体的なものによって
向上する可能性があります。しかし、それだけで患者さんが十分に満足できるかというと、決してそうでは
ありません。患者さん自身の社会的なニーズあるいは個人的なニーズによって、満足度は大きく変わり
ます。たとえば、仕事をずっと続けたい、孫と一緒に暮らしたい、美味しいものを食べたいなど、
ニーズはさまざまです。
自分自身の人生のニーズがわかっている人は幸福です。自分が何のために生きているのか、また何によって
生きているのかがわかる方は、自分にとって必要なものがわかり、医療従事者とのコミュニケーションも
円滑に行え、高い満足度を得ることができるように思います。医療従事者は、その患者さんのニーズと、
科学的真実に基づいた治療やケアをつなげることが仕事です。
がん治療の原則(6)
■抗がん剤の副作用はあってはいけないものです
化学療法など、がんの全身療法を行うと、ともすれば患者さんに対して、「抗がん剤治療だから、
多少の副作用はつきものだから、我慢すべきだ!」と、患者さん自身も、家族も、また医療従事者も
考えてしまう傾向があります。これは原則として間違いです。
「副作用」はあってはいけないものですし、我慢など強調してはいけません。多少にかかわらず、
医療従事者は患者さんの苦しみを緩和する努力をしなければいけません。ましてや、患者さんが寝たきりに
なるような全身療法を行うことはもってのほかです。そして副作用にどのように対応するかは、高度な
内科的アプローチが求められます。副作用にうまく対応して全身療法をするには、内科を含めて最低でも
6年に及ぶ高度なトレーニング(研修)が必要です。
よりよいがん医療を受けるには、患者さん自身が出現しそうな副作用の種類などを知り、アンテナを張って
モニターし、常に医療従事者へ副作用の有無を報告するべきです。それで、もし医療従事者が我慢を
強調するようなら、今後、そのようなところでは適切な治療は受けられないかもしれません。
おわりに
■原則を守って治療を行う医療従事者を育てることが大切です
患者さんが人間らしく生き、そして、いい死を迎えるには、医療従事者が原則を守って治療を行うことが
必要です。しかし、医療従事者の多くがちゃんと原則を実行しているかとなると、大きな疑問があります。
実は、がん治療の原則は教科書などには明確には書かれていません。これらの原則は、医療従事者としての
訓練のなかで身につけるものであり、身につかないまま医療従事者になれば、それを後で身につけることは
とても大変なことです。
ですから、原則を守って治療を行う医療従事者をしっかりと育てることが大切です。そして、本当の意味
で、患者さん中心の新しいがん医療を行うには、がん医療の新しいリーダーを養成することが必要と
考えています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私の通っている病院で、入院中にインターンデビュー前の学生さんと模擬診察をするという機会が
ありました。私の担当は、まだまだ若い男子学生さんでした
その時に、印象的だったのは模擬診察で患者さん役をしてくれる患者に教授がわざわざ生徒を連れて
一人ひとりに「お願いします」と挨拶に来てくれた事です。もちろん、学校の先生も一緒でした
その時に教授が言われたのは「医師になっていない者を患者さんにお願いするのだから」という事でした
ドラマで見る朝の教授回診のイメージとは違っていて(白い巨塔みたいな)うちの教授はとっても
腰の低い方でした。当たり前なのかな?でも、本当に優しい笑顔の先生でした
私が通っている病院で主治医に初めて会った時に印象的だったのは「○○です。お願いします」と名前を
みせて挨拶をしてくれた事でした
患者さんによっては医師に名前を聞いたら「掲示板に名前が出てるだろう」と言われたという話もあります
一度も顔を見ないでモニターを向いたままで診察が終わったという話もあります
難しいことかもしれませんが、よりよいコミュニケーションをする事がよりよい治療を受けることに
つながるのかもしれないと思った出来事でした
2010年08月26日 Posted by すもも at 09:12 │Comments(0) │がん治療の原則
よりよいがん医療をうけるために・・・家族の役割
今日は患者の家族がどうやって治療をうけいれるか。です
がんという病気は、患者にとっても家族にとってもとても大きな選択をしなくてはいけない病気だと
思います。できるだけ早く、そしてお互いが納得する治療を受けて欲しいと思います
今日は、M.D.アンダーソンがんセンターの上野直人医師の言葉です
上野医師は、日本にチーム医療を広めた医師という事で有名な方です
HPを参照してください
http://www.teamoncology.com/index.php4
チームオンコロジー
私の病院では今、がんのチーム医療をチームオンコロジー(オンコロジーとは腫瘍学のこと)と言って
います。単に医師だけが治療にかかわるということではなく、看護師さん、薬剤師さんも含めて、
さらにはケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど、いろいろな職種の人たちが一緒になって医師と
協力し、患者さんを中心におきながら医療をしようというものです。
1つめのグループは、患者さんと医療の面で直接関わり、医療における問題を解決する職種で、医師、
看護師、薬剤師、放射線技師、栄養士などです。こういった人たちは、エビデンス(治療実績の客観的
根拠)や過去の経験に基づいてよりよい医療を担当するとともに、臨床試験をして、よりよいエビデンスを
手にしていく役割を担うグループです。
2つめのグループは、臨床心理士、ソーシャルワーカー、宗教家、音楽・絵画療法士、アロマセラピーと
いった、患者の精神生活上のニーズをサポートする人たちです。こういった人たちは、必ずしも問題を
解決することを役割とするわけではありませんが、患者さん、あるいはご家族の主観的な考え方への共感と
いった精神面に関わり、自己決定を促しQOL(生活の質)を確保するとともに、満足度を高めるための
サポートを狙いとしています。
3つめのグループは、1つめのグループ、および2つめのグループを囲むグループで、ご家族、友人、研究者、
製薬メーカー、メディア、政府といった関係の人々で、直接的に患者さんを治療しているわけでは
ありませんが、いろいろな形で包括的なサポートをするグループです。
このように、一人の患者さんには様々な職種の人がかかわるというチームオンコロジーの考え方は、
今後非常に重要になってくると思います。
家族の役割
医療をよりよいものにするのは、医療従事者だけではありません。チームオンコロジーの考え方では、
患者さんを中心とした医療において家族も間接的に大変重要な役割を担っています。患者さんの
気持ちを理解して問題点を把握・認識し、そして解決できる問題と解決できない問題を見分けることが
家族の役割のポイントです。
(1)患者さんの気持ちを認識する
一例を挙げれば、患者さんが怒っていたり、あるいは哀しいと思っている気持ちを「怒っているんだね」
「哀しいのですね」と家族が言えるということが、非常に重要なことなのです。
ただし、患者さんと同じ気持ちになる必要はありません。相手が泣いてるから、私も泣くという必要は
ないのです。大切なのは、問題を意識したり、気持ちを認識することです。患者さんと常に気持ちを同じ
ように保っていたら、家族は燃え尽きてしまうからです。
仮に、夫にがんが再発して、治療がうまくいっていない。夫は哀しくて涙があふれて、しかも苛立って
いる。そんな時、妻に「あなたの気持ちはよくわかります。とにかく頑張るしかないのだから、早く
お医者さんに相談しましょう」と言われれば、夫はきっと「お前なんか、がんじゃないから俺の気持ちは
わからないのだ。頑張る?いいかげんにしてくれよ」と思うでしょう。
逆に、「あなたは苛立ってるのね。わかるわよ。今、何考えているの?どう思っているの?」と問いかけて
みたらどうでしょう。それでけっこう多くの患者さんは、「私の気持ちがわかっている」と受け取ると
いうわけです。
(2)問題点を認識する
もとより、生起してくる問題には解決できるものと解決できないものがあります。たとえば、家族の皆さん
は薬を出すことはできません。体が痛いと患者さんが苦痛を訴え、苛立っていても、それは解決できない
ことです。しかし、解決できる問題は沢山あります。車を代わりに運転するとか、薬をとりにいくとか、
寒いから布団をかぶせてあげるとか、生活に直接関わることはできるはずです。これは家族の皆さんが
できる比較的簡単なサポートです。
解決できない問題をどうするかということは課題ですが、問題点を認識するだけでも十分なサポートの
一環ですから、ご家族の皆さんは、是非それに気づいていただきたいと思います。
(3)家族自身のケアをする
患者さんと接する家族の役割としてさらに重要なことは、ご家族が、ご家族自身のケアをすることです。
もしご家族自身が助けがほしいと思ったら、ほかの人に助けを求めてください。
また、相手の気持ちに振り回されないでください。言い換えれば、自分の気持ちに正直であることが
大切です。患者さんが哀しんでいるから、家族も一緒になって哀しむ。あの人が哀しんでいるから私は
ゴルフに行けない、ショッピングにもいけないというようなことでは困るのです。難しい病気になって、
患者も家族と一緒に、運命共同体で沈んでいくということではいけません。大切なのはそれぞれが自立して
いるなかで、相手の気持ちに影響されないでサポートをすることです。それにはご家族自身がしっかり
した立場で患者さんと接し、家族自身が幸せである必要があります。
よりよい医療を受けるために
私は、医療とは患者さんの満足度を高めることであると考えています。満足度を計ることはとても難しいの
ですが、患者さんがどういう医療を求めているのか、どういう人生観、あるいはバックグラウンドを持ち、
何をしたいのかをしっかりと聞く必要があります。つまり、何をしてあげれば患者さんが納得できるのかを
知ることです。がんを縮小させることだけを患者さんは望んでいるわけではないと思うのです。
満足の中身にはもちろん病気が治る、あるいは病気をコントロールできるようになるといったことはあると
思います。ただ、必ずしもそれで正解とは言えません。がんを抱えていて、仮にQOLを維持できず、
また病気を治すこともできなくても、本当に納得できる医療を受けたという満足感を得られるかどうかが
ポイントです。確かに、実際に満足を計ることは難しいですが、患者さんと上手にコミュニケーション
して、いかに患者さんに満足してもらうことができるかが、医療従事者、そして家族の大きな仕事であり、
責任であると思います。
患者さんを中心としたチームオンコロジーに家族も参加することです。その際、まず焦らないでください。
がんは慢性病で、がんの治療はマラソンのようなものです。ですから、ゆっくり走っても、走りすぎても
困るのです。息切れを起こし、無気力感に陥ってしまいます。医療従事者はマラソンのコーチであり、
家族もマラソンのコーチの一員です。その感覚でがんに取り組むことが大切です。
また、マラソンのペース配分を間違わないためには、きちんとした情報を取得することが不可欠です。
特に、悪いことを言われると、人は頭の中が真っ白になってしまうものです。そのためには、ご家族も
患者さんと一緒に医師の話を聞いてください。本当に良い治療を受けるチャンスは、目の前にころがって
います。それを獲得するには、患者さん、そしてご家族自身が医療の受け方の取り組みを変えることにある
と思います。
がん治療の原則へ続く・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『人が生き、死ぬという事 19歳の君へ』日野原重明著
この本の中で、ある話が書いてあります
「9.11 母と息子の対話」
ピッツバーグで落ちた飛行機の中に、ある20代のアメリカ人男性が乗っていました
彼はテロリストに飛行機をハイジャックされた事を知った時に家族に電話をしました
きっと彼は「もう生きては帰れない」と感じたんだと思います
そして電話の第1声で、お母さんに「お母さん、ハイジャックされた」といいました
「お母さん、今までありがとう。お母さん、愛しているよ。今までありがとう、お母さん
愛しているよ、愛しているよ」彼は、お母さんに感謝の気持ちと愛しているという言葉を言い続けました
そして、このお母さんは「お母さんもあなたを愛しているよ」と言いました
でも、もしもこれが日本人だったらどうでしょうか?
「お母さん、ハイジャックされてしまった。どうしよう」おそらくこうなるだろうと思います
「静かにしなさい、犯人に聞こえたらどうするの。あなたはきっと帰ってこれるから」
これを読んで「そんなことない。私のお母さんは違う」と言う人が何人いるでしょうか?
私の母親もそうでした
私が不安で仕方がないって言ったら「あんたはなんで前向きに生きれないの」と言われました
そして、それを「がん友」に泣きながら言いました「お母さんはわかってくれない」って
でも、その友達みんなに「お母さんが正しい、あんたが間違ってる」と言われました
その時、私は病院も決まっていなかったし一番不安な時でした
「誰も自分をわかってくれない・・・」と思いました
家族であっても、体験者であっても理解してもらえない・・・今でも忘れられない出来事です
人は不安な時に一人でもいいから、自分を理解してもらってると思えることが大切だと思います
がんという病気は、患者にとっても家族にとってもとても大きな選択をしなくてはいけない病気だと
思います。できるだけ早く、そしてお互いが納得する治療を受けて欲しいと思います
今日は、M.D.アンダーソンがんセンターの上野直人医師の言葉です
上野医師は、日本にチーム医療を広めた医師という事で有名な方です
HPを参照してください
http://www.teamoncology.com/index.php4
チームオンコロジー
私の病院では今、がんのチーム医療をチームオンコロジー(オンコロジーとは腫瘍学のこと)と言って
います。単に医師だけが治療にかかわるということではなく、看護師さん、薬剤師さんも含めて、
さらにはケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど、いろいろな職種の人たちが一緒になって医師と
協力し、患者さんを中心におきながら医療をしようというものです。
1つめのグループは、患者さんと医療の面で直接関わり、医療における問題を解決する職種で、医師、
看護師、薬剤師、放射線技師、栄養士などです。こういった人たちは、エビデンス(治療実績の客観的
根拠)や過去の経験に基づいてよりよい医療を担当するとともに、臨床試験をして、よりよいエビデンスを
手にしていく役割を担うグループです。
2つめのグループは、臨床心理士、ソーシャルワーカー、宗教家、音楽・絵画療法士、アロマセラピーと
いった、患者の精神生活上のニーズをサポートする人たちです。こういった人たちは、必ずしも問題を
解決することを役割とするわけではありませんが、患者さん、あるいはご家族の主観的な考え方への共感と
いった精神面に関わり、自己決定を促しQOL(生活の質)を確保するとともに、満足度を高めるための
サポートを狙いとしています。
3つめのグループは、1つめのグループ、および2つめのグループを囲むグループで、ご家族、友人、研究者、
製薬メーカー、メディア、政府といった関係の人々で、直接的に患者さんを治療しているわけでは
ありませんが、いろいろな形で包括的なサポートをするグループです。
このように、一人の患者さんには様々な職種の人がかかわるというチームオンコロジーの考え方は、
今後非常に重要になってくると思います。
家族の役割
医療をよりよいものにするのは、医療従事者だけではありません。チームオンコロジーの考え方では、
患者さんを中心とした医療において家族も間接的に大変重要な役割を担っています。患者さんの
気持ちを理解して問題点を把握・認識し、そして解決できる問題と解決できない問題を見分けることが
家族の役割のポイントです。
(1)患者さんの気持ちを認識する
一例を挙げれば、患者さんが怒っていたり、あるいは哀しいと思っている気持ちを「怒っているんだね」
「哀しいのですね」と家族が言えるということが、非常に重要なことなのです。
ただし、患者さんと同じ気持ちになる必要はありません。相手が泣いてるから、私も泣くという必要は
ないのです。大切なのは、問題を意識したり、気持ちを認識することです。患者さんと常に気持ちを同じ
ように保っていたら、家族は燃え尽きてしまうからです。
仮に、夫にがんが再発して、治療がうまくいっていない。夫は哀しくて涙があふれて、しかも苛立って
いる。そんな時、妻に「あなたの気持ちはよくわかります。とにかく頑張るしかないのだから、早く
お医者さんに相談しましょう」と言われれば、夫はきっと「お前なんか、がんじゃないから俺の気持ちは
わからないのだ。頑張る?いいかげんにしてくれよ」と思うでしょう。
逆に、「あなたは苛立ってるのね。わかるわよ。今、何考えているの?どう思っているの?」と問いかけて
みたらどうでしょう。それでけっこう多くの患者さんは、「私の気持ちがわかっている」と受け取ると
いうわけです。
(2)問題点を認識する
もとより、生起してくる問題には解決できるものと解決できないものがあります。たとえば、家族の皆さん
は薬を出すことはできません。体が痛いと患者さんが苦痛を訴え、苛立っていても、それは解決できない
ことです。しかし、解決できる問題は沢山あります。車を代わりに運転するとか、薬をとりにいくとか、
寒いから布団をかぶせてあげるとか、生活に直接関わることはできるはずです。これは家族の皆さんが
できる比較的簡単なサポートです。
解決できない問題をどうするかということは課題ですが、問題点を認識するだけでも十分なサポートの
一環ですから、ご家族の皆さんは、是非それに気づいていただきたいと思います。
(3)家族自身のケアをする
患者さんと接する家族の役割としてさらに重要なことは、ご家族が、ご家族自身のケアをすることです。
もしご家族自身が助けがほしいと思ったら、ほかの人に助けを求めてください。
また、相手の気持ちに振り回されないでください。言い換えれば、自分の気持ちに正直であることが
大切です。患者さんが哀しんでいるから、家族も一緒になって哀しむ。あの人が哀しんでいるから私は
ゴルフに行けない、ショッピングにもいけないというようなことでは困るのです。難しい病気になって、
患者も家族と一緒に、運命共同体で沈んでいくということではいけません。大切なのはそれぞれが自立して
いるなかで、相手の気持ちに影響されないでサポートをすることです。それにはご家族自身がしっかり
した立場で患者さんと接し、家族自身が幸せである必要があります。
よりよい医療を受けるために
私は、医療とは患者さんの満足度を高めることであると考えています。満足度を計ることはとても難しいの
ですが、患者さんがどういう医療を求めているのか、どういう人生観、あるいはバックグラウンドを持ち、
何をしたいのかをしっかりと聞く必要があります。つまり、何をしてあげれば患者さんが納得できるのかを
知ることです。がんを縮小させることだけを患者さんは望んでいるわけではないと思うのです。
満足の中身にはもちろん病気が治る、あるいは病気をコントロールできるようになるといったことはあると
思います。ただ、必ずしもそれで正解とは言えません。がんを抱えていて、仮にQOLを維持できず、
また病気を治すこともできなくても、本当に納得できる医療を受けたという満足感を得られるかどうかが
ポイントです。確かに、実際に満足を計ることは難しいですが、患者さんと上手にコミュニケーション
して、いかに患者さんに満足してもらうことができるかが、医療従事者、そして家族の大きな仕事であり、
責任であると思います。
患者さんを中心としたチームオンコロジーに家族も参加することです。その際、まず焦らないでください。
がんは慢性病で、がんの治療はマラソンのようなものです。ですから、ゆっくり走っても、走りすぎても
困るのです。息切れを起こし、無気力感に陥ってしまいます。医療従事者はマラソンのコーチであり、
家族もマラソンのコーチの一員です。その感覚でがんに取り組むことが大切です。
また、マラソンのペース配分を間違わないためには、きちんとした情報を取得することが不可欠です。
特に、悪いことを言われると、人は頭の中が真っ白になってしまうものです。そのためには、ご家族も
患者さんと一緒に医師の話を聞いてください。本当に良い治療を受けるチャンスは、目の前にころがって
います。それを獲得するには、患者さん、そしてご家族自身が医療の受け方の取り組みを変えることにある
と思います。
がん治療の原則へ続く・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『人が生き、死ぬという事 19歳の君へ』日野原重明著
この本の中で、ある話が書いてあります
「9.11 母と息子の対話」
ピッツバーグで落ちた飛行機の中に、ある20代のアメリカ人男性が乗っていました
彼はテロリストに飛行機をハイジャックされた事を知った時に家族に電話をしました
きっと彼は「もう生きては帰れない」と感じたんだと思います
そして電話の第1声で、お母さんに「お母さん、ハイジャックされた」といいました
「お母さん、今までありがとう。お母さん、愛しているよ。今までありがとう、お母さん
愛しているよ、愛しているよ」彼は、お母さんに感謝の気持ちと愛しているという言葉を言い続けました
そして、このお母さんは「お母さんもあなたを愛しているよ」と言いました
でも、もしもこれが日本人だったらどうでしょうか?
「お母さん、ハイジャックされてしまった。どうしよう」おそらくこうなるだろうと思います
「静かにしなさい、犯人に聞こえたらどうするの。あなたはきっと帰ってこれるから」
これを読んで「そんなことない。私のお母さんは違う」と言う人が何人いるでしょうか?
私の母親もそうでした
私が不安で仕方がないって言ったら「あんたはなんで前向きに生きれないの」と言われました
そして、それを「がん友」に泣きながら言いました「お母さんはわかってくれない」って
でも、その友達みんなに「お母さんが正しい、あんたが間違ってる」と言われました
その時、私は病院も決まっていなかったし一番不安な時でした
「誰も自分をわかってくれない・・・」と思いました
家族であっても、体験者であっても理解してもらえない・・・今でも忘れられない出来事です
人は不安な時に一人でもいいから、自分を理解してもらってると思えることが大切だと思います